
10年の月日が流れました...そう...2006年12月20日(日本では12月21日)はSteve Jobs氏が1996年12月20日に非常勤顧問(当時)としてAppleに帰還してから丁度10年になります。
1996年当時、このBlogでは何度も頻繁に登場しているGil Amelio氏が当時Appleを率いるCEOでした。そして、当時彼に科せられていた最大の課題は「Appleの再建」でした。当時財政施策や利益構造の見直し、過剰な在庫処分などをこなしAppleに対し何とか延命処置を施したGil Amelio氏でしたが、当時開発を進めていた最も重要な次期OS「Copland」は既に行き詰まっていました。問題となっていたのはCoplandの「カーネル」。当時この問題を何としても解決しなければならなかったそうです。

そして、様々なミーティングを重ね当時のAppleが辿り着いた解決策が「他社からのカーネル部分の購入」だったのです。当時カーネルの購入先には様々な候補が挙がっていました。候補に挙がっていたのはSun MicrosystemsのSolaris、MicrosoftのWindows NT、そして、元Apple幹部のJean Louis Gassee氏率いる当時立ち上がったばかりのベンチャー企業として、まだ何の利益も挙げていなかったBeのBe OS。



当時この様子を最大のチャンスと見ている人物がいました。その人物こそ当時NeXT Softwareとその前年にやっとフル3D CGアニメーション映画「トイ・ストーリー」の公開に漕ぎ着けていたPixar双方のCEO Steve Jobs氏でした。このとき彼が取った行動は雑誌Wired 1997年6月号でのSteve Jobs氏へのインタビューにこう書かれています。「チャンスの到来を察知して、ジョブズはここ何年も取ったことのない行動に出た。彼はアップルに電話をかけたのだった。ギルバート・アメリオは海外に行って留守だったので、技術部門の責任者兼副社長エレン・ハンコックへの伝言を託した。」

電話を受け取ったEllen Hancock氏の様子も同誌に書かれています。「スティーブ・ジョブズが電話をかけてきたというので、飛び上がるほどビックリした」「でも、私はすぐに彼に電話をかけ直しました。」そして、続きにはこう書かれています。"ハンコックとジョブズは電話で、OSのこととアップルの苦境について話をした。当時、アップルはネクスト買収のことはまったく考えていなかったし、ジョブズも売り込む様な話はしなかった。"
しかし、この数日後今度はSteve Jobs氏が驚く番だったそうです。同誌にはこう書かれています。「それから数日後の11月27日、ジョブズはバークレーの北に位置するポイント・リッチモンドにあるピクサーの小さなオフィスで仕事をしていた。いつものようにレッドウッドにあるネクストのオフィスに定期連絡の電話をかけた。今度は彼がびっくり仰天する番だった。アップルのエンジニアふたりとマネージャーが、ネクストのマネージャーたちと密談しているというのだ。ネクスト側がアップルを呼んだらしい。」
実は当時のApple CEO Gil Amelio氏もSteve Jobs氏と連絡を取りたがっていました。彼の著書「アップル薄氷の500日」にはこう書かれています。「私は幹部達にきいて回った。この件(カーネル購入)で電話出来るぐらい、スティーブと、あるいは彼の部下と親しい者はいないか?」そして、その願いを聞いたかのように1996年11月末にSteve Jobs氏からAppleに連絡が入ります。しかし、上記に書かれている通り当時彼は出張中で連絡が取れませんでした。後日Steve Jobs氏と電話で話したことを彼は著書でこう書き記しています。"スティーブと電話で話すのは、極上のワインの香りを嗅ぐ気分だった。彼は静かな口調で言った。「僕はこれから日本に行くところですが、一週間後に戻ってきます。そうしたら、なるべく早く会いましょう」そしてこうつけ加えた。「僕と直接会って話し合うまで、決断を下さないで下さい」」私は快諾した。"
このちょうど1年前、実はSteve Jobs氏はOracleのCEO Lawrence Ellison氏(ラリー・エリソン)と共にAppleを買収しようと休暇先のハワイで思案していたそうです。Wired 1997年6月号にはこう書かれています。「ジョブズの株買い占め計画はほとんど実現しかけていたと言う。オラクル社を含む数社の法人投資家がすでに30億ドル近くの出資を決定していたし、彼らの計画ではジョブズに経営を委ねる予定だった。」

(のちにAppleの取締役会に参加していたLawrence Ellison氏)
しかし、Steve Jobs氏はこれを実行しませんでした。その理由も同誌に書かれています。「基本的には自分は冷酷に乗っ取りができるような人間ではない」「だから、彼らから戻ってきてほしいと頼まれていれば、状況は違っていたかもしれない」そして、それから1年後「戻ってきて欲しい」が現実になろうとしていました。
Gil Amelio氏との対話から時間が経って1996年12月2日。Steve Jobs氏はGil Amelio氏、Ellen Hancock氏らと会談を行う為にAppleのキャンパスに足を踏み入れました。それは彼が1985年にAppleを去って以来の出来事でした。
以前からカーネギー・メロン大学が開発したカーネル「Mach」に興味を示していたGil Amelio氏は既にそれを採用していたOS「NeXT STEP」に大変な興味を示していたためSteve Jobs氏の絶妙なプレゼンと相まって当時NeXT STEPは非常に好意的に検討リストに迎えられたそうです。


そして、12月10日パロアルトのガーデンコート・ホテルの会議室で行なわれたBeとNeXT STEPのプレゼン対決でSteve Jobs氏の巧みな情熱溢れるプレゼンとAvie Tevanian氏の技術解説に対し、それまで幾度にも渡りプレゼンを行なってきたJean Louis Gassee氏は手に何一つ持たずたった一人でホテルに現れます。「既に我々の製品の事は十分ご存知でしょう」という様に(Jean Louis Gassee氏はそれまでにAppleに対してBeのプレゼンを行なっていた)。結果ここでBeは去ることになります。

その数日後Gil Amelio氏はAppleの取締役会へNeXT Softwareの買収提案とプレゼンの為にSteve Jobs氏を招きます。そして、そこでは1985年にSteve Jobs氏をAppleから追放した一人Mike Markkula氏との再会がありました。再会したときSteve Jobs氏はMike Markkula氏に歩み寄り握手を交わしたそうです。当時これを目の前で目撃したGill Amelio氏は後にこの出来事に対して非常に感銘を受けたと語っています。

Steve Jobs氏の電話から約1ヶ月後の1996年12月20日、その時が来ます。1996年12月20日20時Gil Amelio氏は報道陣に対して発表しました。「AppleはBe案ではなくA案をとった」...NeXT Softwareの買収額は約4億ドル。当初Be買収の為に想定されていた買収額の倍以上の金額でした。ちなみにGil Amelio氏は自らの著書の中でこう書かれています。「この巨大企業が救えるなら、さらに二億ドル上乗せしても(つまり六億ドル!?)、どうということはない。少しばかり高くつこうが、買収に踏み切るしかなかった。」...そしてSteve Jobs氏は帰還したのです。

その後の物語は皆さんがご存知の通りです(冷汗&笑)。今年はストックオプション問題が発生し、これと同じ状況に至った企業のトップは次々と辞任して行きましたがSteve Jobs氏は現在も健在...わたくし自身はこの残留判断は当然Steve Jobs氏だけが行なったのでは無いと思っていますが、Appleとしてのこの判断を正直非常に残念に思いました。
しかし、現在の活況がSteve Jobs氏によって形作られたのも事実。そういう意味では今年はSteve Jobs氏もAppleの方々もストックオプション問題を通して究極の選択を迫られたことと思います。これからの10年がSteve Jobs氏にとってどういった意味をもたらすのかは分かりませんが、これまでの10年間で彼とそのスタッフの方々が出してきた結果は明らかに称賛に値するでしょう。ですからSteve Jobs氏には新しい10年間は足下に目があるぐらい、しっかりと気を付けて歩んで頂きたい(冷汗)。
P.S.
最近仕事が込み入っていましてBlogを書く時間が全くありません(大脂汗)...いつも覗いて頂いている方々には本当に申し訳なく思っております(謝&涙)。
話は変わって本日は青島幸男さんがお亡くなりになり、岸田今日子さんも12/17にお亡くなりになっていたとお聴きしました。非常に残念です...また一つの時代が終わってしまったのですね...心からご冥福をお祈り致します。
林 信行-Jobs&Co.
林 信行-Jobs&Co.-アメリオとジョブズ、ゲームの「やり方」
Macお宝鑑定団-1996/12/23〜12/17
http://ja.wikipedia.org/wiki/スティーブ・ジョブズ
http://ja.wikipedia.org/wiki/ギル・アメリオ
http://apple.ism.excite.co.jp/page/エレン・ハンコック.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/ジャン=ルイ・ガセー
ORACLE-役員紹介-ラリー・エリソン(ローレンス J. エリソン:Lawrence J. ELLISON)
http://ja.wikipedia.org/wiki/ラリー・エリソン
http://ja.wikipedia.org/wiki/アビー・テバニアン
http://ja.wikipedia.org/wiki/マイク・マークラ
wikipedia-Copland
http://ja.wikipedia.org/wiki/カーネル
wikipedia-Solaris
wikipedia-Microsoft Windows NT
wikipedia-BeOS
wikipedia-NeXTSTEP
wikipedia-Mach
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