2008年02月14日

機能価値や在り方が変化しないモノ

パーソナルコンピュータに対していつも思う事がある。
Tea_01.jpg


何故手元にあるパーソナルコンピュータをいつまでも現役で使い続ける事が出来ないのか??

先日、山田祥平のRe:config.sysの「一生もののPC」を読んで非常に共感しこの記事を書くことにした。この記事にはこう書かれている「PCもまた、万年筆や椅子、机のように、普遍的な道具になるのだろうか。」と。以前にもわたくし自身似た様な記事を書いたが改めて今の自身の視点で書いてみようと思う(笑)。

MacBook Airの出荷が開始された。賛否両論様々な見解があるが、その「デザイン=在り方」は優れた道具としての資格を有しているだろう。何より添付されたクリーニングクロスにApple側の愛着あるメッセージが込められている様に思われる。

鍋は調理の際に食材を炊く為の機能を果たし、包丁は食材を刻む為の機能を果たす。そして、時計は時を刻みながら家族に夕食の時刻を知らせ、自動車は今いる場所から家族が待ち受ける場所までの移動時間の短縮を効率よく図ってくれる。

パーソナルコンピュータはそもそも趣味の道具として生まれて来た。それが時と共にビジネスをはじめあらゆる分野で活かされる様になり、これまでの間にパーソナルコンピュータはその多様性を大いに示して来た。しかし、その”大いなる多様性”が「道具としての愛着」を持つ事が出来る基準に当てはめると致命的な欠点となってしまったのかもしれない。

visicalc.gif

(パーソナルコンピュータが本格的にビジネス利用される切っ掛けとなった世界初のパーソナルコンピュータ向け表計算ソフトVisicalc。写真はMUIseumより拝借)

先述の通り自動車はA地点からB地点への移動時間を短縮しユーザの約束の時間を守ったり、時間の猶予などを創り出す。現在の自動車はその登場時と比べてさらなる移動時間の短縮が行なわれた以外はユーザによって価値の置き方はそれぞれ違うが、機能価値は根本的には変わっていないと思われる。

その昔から道具としての「機能」が大幅に変わっていない道具は短期サイクルで買い替える必要が発生しないため道具との間に愛着を持つ為のシェアの時間を確保する事が出来る。そして、当然ながら根本的に製品自体に愛着を持てる様な「デザイン=在り方」を与える事も出来るだろう。

しかし、これをパーソナルコンピュータに置き換えた場合はどうだろう。現在のパーソナルコンピュータはOSの進化や利用する分野での要求条件によって未だにその基本性能の向上を求められている様に感じられる。

これを「パーソナルコンピュータは未だに発展途上なのだ」と言い切ってしまう事も出来るかもしれないが、良くも悪くもごくごく日常で利用する様なOS自体が基本性能の高い要求条件を出すという状況が当たり前の様に見受けられる。

こういった状況下ではパーソナルコンピュータに対して愛着を持とうとしても、パーソナルコンピュータとの間でコミュニケーションをする為のシェアの時間が少なくなってしまう。これではモノに対して深い愛着が湧くはずも無い。

さらに日本の様な住環境が物理的に決して広いとは言えない事情ではたとえ愛着がわいても、その時代に必要とされる基本性能の要求条件が変わり必要に応じて新機種を購入した場合、その時には置き場所が無い為に手放さざる得ないことも多いことと思われる(どこかで聞いた様なお話だ[涙]...)。

つまり現在のパーソナルコンピュータは「特定の条件でのみ使用するから現在の状態を変える必要が無い」という特化した条件か「パーソナルコンピュータにはそれほど興味が無い」「我が家には余りある空間がある」といったユーザでない限り一定の時期が来れば買い替えを検討することになるというわけである。

話はそれるが我が家を見回してみると結構年数を重ねた「モノ」がある。例えばわたくしが愛用しているガットギターは既に40年以上の年月を重ねてわたくしより遥かに年上だし、Jazz用のフルアコースティックギターのGibson ES-175Dは28年、オーディオのプリメインアンプSunsui AU-D907Fも28年、サブ利用のPioneerのスピーカーS-55Twinは21年だ。

これだとカスタムオーダーのエレキギター、Valley Artsの16年やCasioの腕時計の11年が若々しく感じられてしまう(笑)。

ES-175.jpg

(写真は我が家のGibson ES-175D。最近余り弾いてやっていない...これはイカン[冷汗]...)

どれも比べ様の無いぐらい非常に愛着を持っている。数年前にちょっとしたミスでガットギターのボディーに大きな傷が付いた時はまるで人間にでも謝る様に必死にガットギター相手に謝罪してるわたくしの様子をみて奥さんは完全に腰が引けていた様子だった(冷汗)...

これらに愛着を持っている”わたくしの理由”は非常にシンプルだ。「濃密な時間を共に過ごし、濃密な時間の中でコミュニケーションを図った」ただこれだけの事だ(笑)。そう考えると仕事でもプライベートでも多くの時間を一緒に濃密に過ごしているとも言えるわたくしのiMac Core Duoは既に愛着のわいている愛用品ということになる(笑)。

しかし、iMac Core Duoを5年後、10年後に利用しているのか、と問われると利用していない可能性が高いと答えるだろう。5年後、10年後のパーソナルコンピュータに「出来ること=機能」が増えているかは分からないが恐らく市場の求める基本機能の要求条件はより高くなっている可能性が高い。

何故ならば市場がその意図で動かないと90年代初頭のMacintosh SE/30の様な非常に長持ちする製品ばかりでは経営が成り立たないからだ。その様に考えてみるとここ数年AppleがMacのプロダクトデザインを大幅に変化させないことは外観に対するユーザの”愛着”を穏やかに受け入れる効果を産み出しているのかもしれない。

Macintosh-SE30.jpg

(長い間多くのMacユーザに愛用され続けているMacintosh SE/30。写真はwikipediaより拝借)

MacBookPro15_leopard_400.jpg

macpro_hero_400.jpg

(それぞれPowerBook G4(Al)Power Mac G5登場以来外観デザインを踏襲し続けているMacBook ProとMac Pro。基本の外観デザインを踏襲し続ける事でユーザの愛着を受け止めているのかもしれない。写真の著作はApple,Inc.に帰属致します)

そして、その一方で「音楽を聴く」という非常にシンプルな機能を提供しているiPodシリーズはこれまでに出て来た条件の中ではMacと比較すると明らかに愛着を持ちやすい対象だろう(笑)。

iPod_1st_1G.jpg

(写真は新時代の携帯オーディオを牽引した1G iPod。写真の著作はApple,Inc.に帰属致します)

今後パーソナルコンピュータはどの様な意図で変化して行くのだろうか??パーソナルコンピュータがあるがままの状態で愛着わく製品に成長して行けるのだろうか??何よりデジタル技術はどの様な変化を遂げていくのだろうか??今後も我々は数々のパラダイムをくぐり抜けて行くのだろう。ならば「人ありき」の考えの下、良い意図での変化を目指すべきだ(笑)。

話は変わるが攻殻機動隊Stand Alone Complexの中でこういうセリフがあった。「自分という個を特定しうる証拠を記録しておきたいからこそ、人は外部記憶にそれを委ねる〜中略〜(腕時計に対して)それが唯一これまでの自分を特定出来る外部記憶装置なんじゃないのか...」。

これは愛着を良い意味で捉えていた考えとは「反対からの視点」とも取れるが”個”を特定する為に物理的なモノに執着し、依存する度合いの強い状況は、たとえ”愛着”は同じでもデジタル技術がここまで行き着いた世界は考えるだけであまりにも切なすぎると思う。同じ”愛着”がこの様な変貌を遂げない様にしたい。

参考リンク
PC Watch-山田祥平のRe:config.sys 一生もののPC

当Blog-デジタル製品にはなぜ愛着がわきにくいのか??

当Blog-デジタル製品にはなぜ愛着がわきにくいのか?? ー完結編ー

当Blog-デジタル化が進んだことで

当Blog-デジタル時代のコミュニケーション

当Blog-この感覚-アナログとデジタルの価値-

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posted by 賀川和之 at 18:30| Comment(7) | TrackBack(0) | Technology | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
トラックバックありがとうございました。
「濃密な時間を共に過ごし、濃密な時間の中でコミュニケーションを図った」
う〜ん これは、Personal Computerの事とは思えない(笑)。
長いこと一緒に楽しい思いをした相手(人間or機械を問わず)には親近感を覚えますよね。(#^_^#)
Posted by Metal at 2008年03月02日 00:49
先ほど書き忘れましたが・・・
良いギターをお持ちのようですね。
「人間にでも謝る様に必死にガットギター相手に謝罪してる・・・」
お気持ちすご〜っく分かります。
私も、一度にたくさんのソフトをインストールしてOSが壊れたiMacに土下座して謝ったことがあります。(^^ゞ
(嫁さんには内緒でした)
Posted by Metal at 2008年03月02日 00:54
わざわざこちらにまでコメントありがとう御座います(感動)!!

>「濃密な時間を共に過ごし、濃密な時間の中でコミュニケーションを図った」
う〜ん これは、Personal Computerの事とは思えない(笑)。
長いこと一緒に楽しい思いをした相手(人間or機械を問わず)には親近感を覚えますよね。(#^_^#)

いや〜〜〜、ちょいと一般的には直ぐに受取れない
内容だったかもしれないですね(笑)。

今、コーチングを学んでいるんですが、そこでは
物質が相手であってもコミュニケーションを図る事が
出来ると教わったのです。

っで、実際にそれを実感出来たので書きました(笑)。

>良いギターをお持ちのようですね。

そのお言葉有り難く頂戴致しますです(感謝)。

>お気持ちすご〜っく分かります。
私も、一度にたくさんのソフトをインストールしてOSが壊れたiMacに土下座して謝ったことがあります。(^^ゞ

Metalさんも濃い時間をお過ごしの様で(汗&笑)...
そんなMetalさんと一緒に居るiMacはさぞ幸せでしょう(シミジミ)。
Posted by +.kだいひょう at 2008年03月02日 23:57
とあるブログに書き込まれているリンクからやって来ました。Macのデザインを語る方達を訪ねて検索を重ねています。MacBookProほしいほしいの気持ちでいろいろ考えているうちにこんな物を考えてしまいました。ご感想や、改良点などいただけたらうれしいです。
Posted by テンキー欲しい at 2008年03月19日 14:25
初めまして!!
リンク先を見せて頂きました。
確かにいざノート型を利用すると
テンキーが欲しくなるときがあります。

テンキー欲しいさんのデザイン案を見せて
頂いて一番に思い出したのはMacintosh Portable
でしたよ。

http://www.old-computers.com/museum/computer.asp?st=1&c=1005

テンキーを組み込んだ機種が登場したなら実用主義の方
がきっと買い求められると思いますよ。
ただ、わたくし個人はシンプルなものを好むので
あまり好きになれそうにないです(汗)。

サイトを拝見して気が付いたのですが同じ京都の方
なのですね。
また、お時間が許す時に覗いて下さい(笑)。

この度は素晴らしいデザインを見せて頂き
ありがとう御座いました(感謝)。



Posted by +.kだいひょう at 2008年03月19日 21:00
>+.kだいひょう さん
ごらんいただきありがとうございます
京都の方だったんですね
PCの歴史興味深く読ませていただきました
私がMacに興味を持ったのは、寺町のJ&PでIllustrator88のパンフレットを見て、そのソフトウェアが動くのがたまたまMacだったということです
イメージを美しい形に出来るというのが魅力だったです
そういう意味では、私って実用主義だったのですね
きれいな線が描けることは当時のデザイナーにはそれだけで100万以上の投資に値するものでした
そう思い返すと、こんなMacを持っているというよりも、こんなデザインが出来る・・がうれしかった記憶が思い起こされます
もちろん、そんなことができるMacが大好きなんですが・・・
Posted by テンキー欲しい at 2008年03月21日 12:15
遅くなりました(謝)。

>私がMacに興味を持ったのは、寺町のJ&PでIllustrator88のパンフレットを見て、そのソフトウェアが動くのがたまたまMacだったということです

J&Pは思いっきりウチの近所ですよ(笑)。
わたくしもMacを購入したのはある意味
たまたま作曲が出来たから、といえる部分もあります(笑)。

>イメージを美しい形に出来るというのが魅力だったです
そういう意味では、私って実用主義だったのですね

おおぉぉぉっっっ!!ご自身の内側を発見されたとは
素晴らしいですねぇ(感心感心)。

>きれいな線が描けることは当時のデザイナーにはそれだけで100万以上の投資に値するものでした
そう思い返すと、こんなMacを持っているというよりも、こんなデザインが出来る・・がうれしかった記憶が思い起こされます

Macはあくまで「道具」ですからねぇ。
使いだすとペットみたいな側面が出て来ることも
ある様ですが(汗&笑)。

>もちろん、そんなことができるMacが大好きなんですが・・・

わたくしと同じ意見の方で嬉しい限りです。
今後とも宜しくお願い致します(笑)。
Posted by +.kだいひょう at 2008年03月23日 22:30
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